| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-Q-448  (Poster presentation)

中国の半乾燥地に生育する6樹種の浸透調節物質の季節変化

*川井優宏(岡山大学), 三木直子(岡山大学), 山本福壽(鳥取大学乾燥地研究センター), 張国盛(内蒙古農業大学), 山中典和(鳥取大学乾燥地研究センター)

中国の半乾燥地の気象条件の特徴には、降雨量が乏しく、降雨の季節的な偏りや気温の季節的な変動が極めて大きいことがあげられる。浸透調節は乾燥と低温ストレスのどちらにも作用する抵抗性機構である。従って、季節ごとに乾燥や低温条件にさらされる植物において共通する抵抗性機構をもとに応答評価を行うことは、ストレス抵抗性の評価や乾燥地緑化の検討において重要である。そこで、中国の半乾燥地に生育する木本植物において、乾燥・低温条件下で重要な抵抗性気候である浸透調節の季節変化を明らかにすることを目的とした。測定には中国半乾燥地の毛烏素沙地に生育する常緑樹3種(Juniperus sabina, Pinus tabulaeformis, P.sylvestris)と落葉樹3種(Salix psammophila, S.cheilophila, Artemisia ordosica)を用いた。水分、温度条件の異なると考えられる5月、9月、1月に、植物試料を採取した。浸透調節物質として糖10種、糖アルコール4種、ベタイン3種、カチオン4種の含量を測定し、それぞれの総量とそれらを合計した総溶質量(mmol/gDW)を求めた。試料の生重量と乾燥重量から含水比(g/gDW)を求め、総溶質量とあわせて総溶質濃度(mol/L)を算出した。総溶質量より、常緑樹のJ.sabina は5月と1月に、Pinus 属2種は1月に浸透調節を行っていると考えられた。したがって、常緑樹3種は乾燥と低温ストレスに対して能動的に浸透調節を行うことで乾燥に対する膨圧の維持や、低温に対する凝固点降下や過冷却の機構を備えていると考えられた。また3種とも、1月の乾燥と低温ストレスには糖が、さらにJ.sabina では5月の乾燥ストレスには糖アルコールが浸透調節物質として重要であると考えられた。一方落葉樹では、低温に対して脱水による受動的な溶液濃度の上昇は生じているが能動的な浸透調節は行っていないと考えられた。この受動的な溶液濃度の上昇から、低温に対して器官外凍結などの別の抵抗性機構を備えて対応していると考えられた。


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