| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-Q-451  (Poster presentation)

Juniperus sabina における異なる乾燥強度下での水輸送:仮道管の空洞化と壁孔の通水抵抗の影響

*佐藤佳奈子(岡山大・院・環境生命), 三木直子(岡山大・院・環境生命), 小笠真由美(森林総合研究所), 粟飯原友(岡山大・院・環境生命), 矢崎健一(森林総合研究所), 楊霊麗(岡山大・院・環境生命), 松尾奈緒子(三重大・院・生物資源)

針葉樹では、乾燥によって生じた仮道管内の水分消失(空洞化)に伴う木部通水機能の損失は不可逆的だと考えられてきた。一方で壁孔壁の移動による仮道管有縁壁孔の通水抵抗の可逆的な変化が、空洞化を伴わずに通水機能を変化させる可能性も指摘されているが、まだ確認には至っていない。特に水資源の乏しい地域の針葉樹では、乾燥の進行する条件下で壁孔の通水抵抗の増加により仮道管が水を保持したまま通水機能が低下し葉からの失水を抑えると共に、降雨後速やかな生産活動の再開に寄与する可能性がある。本研究では中国半乾燥地に生育するJuniperus sabinaの苗木を用いて、乾燥の進行に伴った木部通水機能の低下に対して、仮道管の空洞化に加え、壁孔壁の移動による壁孔の通水抵抗増加が与える影響についてcryo-SEM等を用いて検討した。その結果、乾燥の進行に伴い仮道管の水分布率と水分通導度(Ks)が低下した。Ksがほぼ0を示す個体では水分布率が0%の個体に加え、40%程度まで仮道管に水を保持した個体が確認された。これらの個体では染色面積の割合や、完全には閉鎖しておらず通水経路となりうる壁孔の割合が比較的高く、水のある仮道管間で完全には閉鎖していないが移動した壁孔壁が確認された。また、J.sabinaは先行研究の様々な種と比べて、壁孔壁の移動性の指数(margo flexibility index)が比較的高かった。これらの結果より、乾燥の進行に伴った通水機能の低下は仮道管の空洞化に加えて、空洞化していない仮道管間の壁孔壁の移動による通水抵抗の増加により生じることが示唆された。壁孔壁の移動性の高さは乾燥時の壁孔の通水抵抗の増加をもたらし、空洞化が生じた際にも密接に孔口を閉鎖して空洞化の拡大を防ぐことから、乾燥の進行する条件下において失水と空洞化を最小限に抑え、降雨後の速やかな生産活動の再開に寄与すると考えられた。


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