| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-Q-452 (Poster presentation)
水界から進化した陸上植物は、炭素獲得と水獲得のバランスを葉と根の呼吸(エネルギー利用)を通じて「個体」ごとに維持している。通常、ブナは芽生え当年の死亡率が高く、生存や適応を左右する。本研究は、こうした芽生え~1年生の2年間の地上・根系別のフェノロジー(成長の季節変動)と呼吸スケーリング(個体サイズに応じた呼吸変化)により、実生生存の個体生理学的な理解を試みた。
フェノロジーの観察にはライゾトロンを用い、根の伸長と開葉を定期的に測定した。呼吸測定は芽生え61個体(発根直後から秋の成長停止まで)と1年生実生9個体について器官別に重量測定と合わせて行った。さらに、葉面積と根表面積を葉面積計と根系画像解析装置(WinRHIZO)を用いて測定した。以上から、芽生え~1年生実生のエネルギー利用特性の変化を評価した。
春に種子成長は発根から始まり葉が追随した。一方、1年生は開葉から始まり根が追随した。このように、春の根と葉の成長開始は芽生え~1年生で逆転した。芽生えの根はエネルギー利用を抑制するものの急速に表面積を量的に拡大し、吸水機能を効率的に高めていた。一方、1年生実生は根の量的拡大を継続させつつ、葉は重量成長を抑えてエネルギー利用を高く保つことで同化機能を高めていた。この変化は、乾燥に弱く小さな芽生えは吸水の構造を確保する必要があり、大きくなった1年生実生は林床で炭素獲得能を高める必要があるためだろう。このように、ブナは芽生え~1年生にかけて、根の吸水表面積(根量)を高める適応から葉の呼吸(葉質)を高く維持する同化依存の適応へとエネルギー利用をシフトさせていた。
個体レベルの生理的機能は成長ステージとともに変化する。今後は成木を含めた個体機能を評価し、地上部と根系の相互作用系が系統や環境によってどのように制御されるのか、幅広い個体スケーリングから検討を重ねたい。