| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-B-063 (Poster presentation)
森林におけるエゾシカの影響が問題となり、その対策として捕獲などが実施されている。対策の必要性や実施場所の選定、効果の判定などのためには、エゾシカが森林に及ぼす影響を評価する必要がある。広域、多地点での評価には簡易な手法が求められ、北海道では簡易なチェックシートが用いられているが、実態をより正確に把握するには詳細な調査が必要である。チェックシートによる評価と食痕などの詳細な調査を同じ地点で実施し、それぞれの手法の特性を検討した。
北海道有林釧路管理区及び胆振管理区に、2012年8~10月にそれぞれ20箇所(各10×10m)の調査区を設定し、2016年まで毎年5月と10~11月に高さ50cm以上の木本植物におけるエゾシカの食痕を記録するとともに、2015年5月に簡易チェックシートによる評価を行った。高さ150cm以下に枝葉のある樹木のうち、食痕が確認された本数を食痕率として求めた。
長期にわたってエゾシカの採食圧を受けた森林では、稚樹が5本/100㎡以下で稚樹本数に大きな変化がなくなっていた。このような森林の更新には、成長の早い萌芽が継続して成長できる状況の回復が少なくとも必要であると考えられた。また、稚樹本数の推移と食痕率の関係から、広葉樹稚樹の本数を維持するには、少なくとも広葉樹食痕率を年40%以下にする必要があると考えられた。
食痕の詳細な調査を春と秋に実施することで、エゾシカの影響の推移や季節性を把握することができた。簡易チェックシートによる評価と詳細調査の結果は、エゾシカの影響が強い場所では一致していたが、胆振管理区の一部では一致しないことがあった。簡易チェックシートは樹皮剥ぎなど冬季の影響を反映しやすいこと、簡易チェックシートのスコアが30点前後ではエゾシカの痕跡はあまり目立たないが、すでに稚樹の減少など影響が生じていることが示唆された。