| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-B-064  (Poster presentation)

大量シーケンスを用いた魚類環境DNAの多種・定量的モニタリング

*潮雅之(京都大・生態研セ, JSTさきがけ), 村上弘章(京都大・フィールド研), 益田玲爾(京都大・フィールド研), 佐土哲也(千葉中央博), 宮正樹(千葉中央博), 櫻井翔(龍谷大・理工), 山中裕樹(龍谷大・理工), 源利文(神戸大・院・人間発達環境)

生態系の保全管理には生物種の記載や生息数の把握といった「定量的な生物多様性モニタリング」が欠かせない。従って、長期・高頻度な多種生物の定量的な時系列データは生態系保全において非常に価値の高いものである。しかしながら、そのような時系列データの取得には時間的・労力的・金銭的なコストが必要となる。

本研究では海洋の魚類群集を対象に環境DNAを利用した定量的かつ網羅的な群集モニタリング手法の開発を試みた。まず、京都府舞鶴湾から週1回、1年分の環境DNAサンプル(N = 52)を取得し、それらに環境サンプル中には存在しない魚のDNA(本研究では東南アジア淡水魚のDNA)を内部標準として添加した。その後、内部標準を加えた環境DNAサンプルに魚類のユニバーサルプライマー(MiFish)を適用しMiSeqによる配列解析のためのライブラリを構築し解析した。

MiSeqによる解析の結果、52サンプル中80%以上のサンプルで決定係数0.9以上という良好な検量線(内部標準DNAコピー数–検出配列数)を描くことができた。本解析では52サンプルから90種以上の魚のDNAが検出されたが、それらの検出配列数を検量線を用いてDNAコピー数に変換した。その後、MiSeqによる定量結果を定量PCR法による定量結果と比較したところ、有意な正の相関が得られ、さらに両者の関係は1:1に近いものであった。

本研究では内部標準DNAを利用した大量シーケンス解析によって一度に多種の魚類のDNA量を定量PCRと遜色ない精度で定量できることが示された。すなわち、環境DNAを今回用いた手法を利用して解析することで多種・高頻度・長期かつ定量的な時系列データをこれまでの手法(例えば目視観察など)と比べて低い労力で得ることができるだろう。本手法は将来的には効果的・効率的な生態系管理を達成するための基盤である生態系モニタリングに利用できると考えられる。


日本生態学会