| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-B-069  (Poster presentation)

山陰海岸国立公園におけるニホンジカとユウスゲは共生できるか

*森豊彦(人と自然の共生ネット)

ユネスコ山陰海岸ジオパークの中で、貴重な植物群落が広く分布する京都府京丹後市久美浜町小天橋から網野町浜詰までの約7kmの範囲において、2016年5月から9月まで、ニホンジカの行動とユウスゲ被害の状況を調査し、ユウスゲ保全対策のための基礎資料を得ることを目的とした。調査方法は主にベルトトランセクト法により、シカの足跡、糞、獣道、植物の被害痕、食害された植物部位等を調査した。地域住民からの聞き取り調査も実施した。また、他のほ乳類相も補足調査した。乾いた砂浜では、ほ乳類の足跡が不明瞭であったため、降雨の翌日の午前中に調査した。さらに、地域住民参加型調査手法により、京丹後市網野町浜詰にて、シカとユウスゲの生態を通して、①丹後の海岸の自然環境の魅力、②生態学の基礎、③環境保全の必要性、④人と自然の共生の大切さ、を理解するための「人と自然の共生セミナー」を実施した。本研究は、平成28年度京都府地域力再生プロジェクト支援事業に基づいて実施した。
 地域の植物に詳しい住民からの聞き取り調査によると、4年前からユウスゲの被害が顕著になってきている。現地調査の結果、ユウスゲの被害は、春季の新芽と夏季の花茎に集中していた。被害が特に多い箇所は、海浜背後の丘の尾根沿いと草丈が低い群落地域であった。シカ以外では、イノシシによるユウスゲの根茎の加害も観察された。次に、シカの行動を足跡、糞、樹皮食害、ユウスゲ食害、獣道等の観察から、海岸背後の山林から出没し、海に近い海浜を移動するルートと、海浜背後のタブノキの常緑樹林帯内を歩行するルートが確認された。保全対策のためには、今後、海岸背後の山林から海岸へのシカの移動ルート等の調査、経費と管理の視点からの保全方法の選択が必要である。また、人とシカの共生も考慮にいれた順応的管理計画の立案も必要である。


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