| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-B-071 (Poster presentation)
農業活動の集約化と拡大は地域の生態系を大きく改変し、地域の種多様性を減少させてきた。様々な生態系の中でも、湿地生態系の減少は極めて深刻である。こうした現状下、これまで衰退してきた多くの湿地性生物にとって、代替生息地として期待されるのが遊水地である。遊水地とは、河川に隣接した区画を堤防で囲み、洪水時に河川の流水を一時的に氾濫させる治水施設であり、大規模な水域、特に止水域を景観内に創出する。近年、北海道をはじめ国内において、治水事業として遊水地の利用が地域の洪水対策に組み込まれ、造成・供用が開始されている。本研究では、遊水地が持つ生物多様性保全機能を評価することを目的とし、国内有数の規模を誇る北海道千歳川本流および支流沿いの遊水地群において、4分類群にまたがる生物種(魚類・水生昆虫類・鳥類・維管束植物類)を調査した。また、当地域に存在する止水環境である3つの水域タイプ(排水機場・農地内に残存する沼・水路)においても同様の調査を行い、遊水地でみられる種構成が他の水域タイプの種構成と異なるのか検証した。
結果、遊水地の生息環境としての機能は分類群ごとに異なっていた。魚類(在来種)の出現種数と個体数が4つの水域タイプ間で差がない一方で、水生昆虫の個体数や湿地性鳥類の種数、湿地性植物の平均被度は他の水域タイプと比較して遊水地で高い傾向にあった。さらに、水生昆虫類では小型~中型のゲンゴロウ類(ケシゲンゴロウ亜科、ヒメゲンゴロウ亜科など)、湿地性鳥類ではカモ・シギ類(キンクロハジロ、ツルシギなど)の個体数が遊水地で他の水域タイプよりも多い傾向にあることも明らかとなった。これらの結果は、農地景観において減少が危惧される湿地性生物の生息環境として遊水地がある程度機能していることを示唆している。