| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-B-075  (Poster presentation)

苗木植栽による渓畔林の再生を検証する

*崎尾均(新潟大学農学部)

日本の多くの渓流域は、砂防・治山構造物による上下流や水・陸域間の断絶や水際までの人工林化によって渓流生態系の劣化が著しい。本研究では、治山構造物が設置された渓流域の様々な立地に渓畔林樹種を植栽し、その成長を追跡、渓畔林再生・修復の可能性を探った。埼玉県秩父市の荒川流域中津川支流の大若沢には、林道に沿って治山ダムが設置されている。この渓流域の工事によって形成された裸地に広葉樹苗を植栽して渓畔林再生を検討した。植栽箇所は、河川の増水で水没する床固工間の低位堆積地、床固工の上下流の平坦な堆積地、および谷壁斜面下部である。植栽樹種は、渓畔林樹種のシオジ・サワグルミ・トチノキ・オニグルミと山腹に分布するミズナラである。植栽は1993年から1997年にかけて行い、2007年まで毎年、胸高直径と樹高を測定し、2015年11月に再調査を行った。低位堆積地および床固工の上流の平坦な堆積地に植栽した苗木は、1998年と1999年の洪水などで全て流失してしまった。一方、谷壁斜面下部に植栽した苗木のうち、一部は洪水の際の洗掘によって山腹崩壊が発生して流失した。また、植栽箇所の一部は、治山工事の搬入路施工のために伐採されて失われた。谷壁斜面下部に残存している植栽木のうちでは、サワグルミとトチノキの生残率が高かった。サワグルミの成長は早く、1997年に植栽した大部分の個体が樹高10mを超え、最大個体では樹高16.5m、胸高直径22cmに達している。このような立地では、先駆樹種であるヤシャブシ、ヤマハンノキ、フサザクラ、ミズメなどの自然侵入も見られたが、後期遷移種の侵入は見られなかった。これら結果から、工事施工後の無立木地はそのまま放置しても風散布によるパイオニア種の侵入が期待できるが、渓畔林樹種を早期に導入するためには、撹乱頻度の低い谷壁斜面下部へサワグルミのような成長の早い渓畔林樹種を植栽することが効果的である。


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