| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-B-077 (Poster presentation)
日本の高山帯・亜高山帯は,地球温暖化に対して脆弱な生態系の一つと考えられており,特に影響が生じる可能性の高い高山帯などにおいては,そのモニタリングを重点的に実施し評価を行うことが重要と認識されている.温暖化に伴う気候変動は,生物季節(フェノロジー)の変化を引き起こすと考えられているが,日本の高山植物のフェノロジーの長期モニタリング事例は,北海道大雪山での取組(工藤・横須賀 2012)のほか本州中部山岳では乏しい.また,多雪を特徴とする日本の高山生態系では,融雪時期が生物の活動開始時期を左右する要因となることが知られており,生態系のモニタリングにおいては,融雪時期観測の重要性が高い.
そこで,本研究は本州中部の木曽山脈北部,極楽平カール内(雪田)および極楽平(風衝地)において,高山植物の開花フェノロジーと融雪時期をモニタリングし,その年変動を明らかにすることを目的として行った.高山植物の開花フェノロジーは,雪田8ヶ所と風衝地6ヶ所の計14群落に5m四方の調査区を設定し,2012年・2013年・2016年に開花ステージと開花植物の開花量について,『モニタリングサイト1000 高山帯調査』に準拠して目視確認した.融雪については,自動撮影デジタルカメラを2012年7月に設置し,通年1時間間隔で撮影した画像について,積雪画素と非積雪画素を判別し融雪過程を確認した.
2016年は,観測期間中最も融雪が速く,2013年と比較して約40日早く消雪した.雪田の高山植物の開花フェノロジーにおいても,2016年は2013年に比べて同群落間で開花・終花時期とも30日~35日早かった.風衝地では,2013年,2016年とも観察開始時期の6月中旬には消雪しており,高山植物の開花フェノロジーも同群落間の年変動は小さかった.融雪や高山植物の開花フェノロジーは,年・地点間で大きな変動を示すため,温暖化の高山生態系への影響を適切に評価するためには長期間の観測が必要となる.