| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-B-097 (Poster presentation)
かつて京都府南部に位置した巨椋池(面積794ha,最大水深約1.1m)は,多様な生物が生息・生育していた.また,宇治川と網目状に繋がっており,洪水調節機能があった.しかし,1941年に干拓されてからは生物の姿が消え,治水機能もなくなった.近年の想定を越える降雨災害に対し,淀川流域では従来の整備計画に加えて,新たな対策をとる必要がある.本研究では京都大学防災研究所宇治川オープンラボラトリー構内に製作した巨椋池流域模型ビオトープを用い,巨椋池の固有種や在来種の生態系保全と巨椋池の遊水地としての利用の検討を行ってきた.ここでは,模型ビオトープの活用法と巨椋池の遊水機能について記述する.また,巨椋池を遊水地としたときの生態系の遷移を推測し,淀川水系においての巨椋池の重要性を考える.
模型ビオトープは巨椋池を中心に10㎞四方の範囲を再現しており,池部には常時水を貯め,干拓前にあったとされる固有のオグラコウホネといった水生植物を生育し,メダカなどの魚類も導入している.河道部は天ケ瀬ダムから水を流すことができ,洪水氾濫解析を行うことによって,巨椋池の遊水機能を検討できる.遊水地の対象を農地とすると,その面積は1,315haであることから,木津川上流の上野遊水地(248.5ha,900万㎥)と比べても十分に貯水機能をもつと思われる.大規模な災害時は流れの緩い遊水地は魚類の避難場となり,河川の越流により栄養塩を多く含んだ土が水と一緒に流れ込むことで植物の成長を促すと見込まれる.また,農業用水路が張り巡らされたこの地域は,内水氾濫が頻繁に起こる.数十年に1度の出水攪乱だけでは維持できない環境を,この内水氾濫を利用することで湿潤な環境が保たれ,巨椋池流域での生態系の創出は可能であると考えられる.淀川水系は固有種や絶滅危惧種も多く存在する.巨椋池が遊水地となれば,宇治川のみならず桂川や木津川からの生物の移動も見込まれ,希少生物の保全に繋がるだろう.