| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-J-291 (Poster presentation)
植物が花や果実、葉から放出する揮発性物質(香り)は、複数の成分の混合である(松井ほか2016)。香り成分の組成や各成分の放出量、総放出量は植物の種類や生育する環境、食害などによって差が生じる。これまでの室内での香り成分の研究では、気温などが一定で変動がなく、自然環境とはかけ離れている。しかし、自然状態に近づけるために野外で実験を行うのは、雨風や実験中に侵入する昆虫の影響といった問題などのため、困難である。また、時間や手間が掛かることもあり、野外において長期に渡って得られたデータは少ない。本研究は枝間・個体間で香り成分の動態にどのような違いが見られるのかを明らかにすることを目的とし、2か月間、イヌコリヤナギ(Salix integra)に注目し、野外で香りの調査を行った。香り成分の捕集は、京都大学生態学研究センター(滋賀県大津市)の圃場に生育するイヌコリヤナギ(Salix integra)を対象として行った。期間は、2016年9月11日~10月27日(全25回)で、捕集の頻度は2日に1回とした。調査対象は6個体選び、各個体から葉の量や大きさが似通った枝(1年枝~2年枝)を2本ずつ選定した。選定した枝は、同じ枝から枝分かれしている2本を選んだ。枝ごとに袋を被せ、そこに吸着管(吸着剤:tenax)1本を繋げた。吸着管の先からポンプで袋の中の空気を吸う(100ml/min、30分間)ことで、吸着管に袋の中の香り成分を吸着させた。吸着管に集めた香りはガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いて分析・同定を行った。解析は主座標分析(Principal Coordinate Analysis;PCoA)を利用した。野外では長期的に見ると香りが大きく変動することが明らかとなった。また、個体間で比較を行うと香り成分の変動に違いが見られた。成分ごとに見るとtrans-.beta.-Ocimeneなどの食害された時に放出される香り成分に特に大きな変動が見られた。これは調査期間が、植食性昆虫が葉の上に存在し、活発に行動する期間と被った為などの理由が考えられる。