| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-J-296 (Poster presentation)
長い進化的時間スケールで存続している相利共生系は一見すると安定的に見えるが、共生者から非協力的な種が進化することは稀ではない。このため、相利共生系の進化を理解する上で、非協力的な種の進化背景を明らかにすることは必要不可欠である。
植物と種子食性の送粉者が互いに強く依存しあう絶対送粉共生系に、コミカンソウ科植物カンコノキ属とハナホソガ属ガ類(以下、ハナホソガ)の関係がある。ハナホソガの雌成虫は、雌花に能動的に授粉後、子房内部に産卵する。孵化した幼虫は果実内で種子を数個だけ食べて成熟するので、いくつかの種子は食害を受けずに残り、植物は種子を残すことができる。
和歌山から沖縄本島にかけて広く分布するカンコノキと、八重山諸島以南に分布する姉妹種ヒラミカンコノキには、系統的に離れた二種のハナホソガが存在することが知られている。これら二種は排他的な分布をしており、特に琉球列島では近接した島間で種が異なることも少なくない。一方の種のハナホソガ(以下、正常種)の分布域では、カンコノキの果実は均一に膨らむが、他方の種(以下、いびつ種)の分布域では、いびつに膨らんだ「果実」のみが見られる。いびつな「果実」では、幼虫が一部の果皮を肥大化させ、正常な種子がほぼできない。このため、いびつ種は宿主植物に利益をあまりもたらさない、非協力的な種である可能性が高い。また、いびつ種の近縁種は全て共生者であり、共生性ハナホソガに特徴的な口吻上の毛がいびつ種にも痕跡的に見られることから、いびつ種は共生者から進化した非協力的な種であると考えられる。
本研究では正常種を基準として、いびつ種がどれほど寄生的かを、二種の形態・行動・種子生産量などを比較することにより検証する。また、先行研究の系統樹より正常種の分布域に後からいびつ種が侵入・拡大したという進化的背景が推測されるので、二種の分布と遺伝的多様度を詳しく調べ、検証する。