| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-J-309  (Poster presentation)

ミドリイシ属サンゴの雑種体はすべて生き残れるのか?

*磯村尚子(沖縄工業高等専門学校), 岩尾研二(阿嘉島臨海実験所), 守田昌哉(琉球大学), 深見裕伸(宮崎大学)

 ミドリイシ属サンゴは、夏季に多種同調産卵をすることが知られている。この際、海中に複数の種の配偶子が混在するため種間交配が起こる可能性がある。著者らは、同所的に生息し、遺伝的に近く種間交配が可能である3種、サボテンミドリイシ、トゲスギミドリイシおよびオヤユビミドリイシを対象に、雑種体形成に関する研究を進行してきた。これまで、サボテンミドリイシとトゲスギミドリイシ、トゲスギミドリイシとオヤユビミドリイシの中間形態を持つ群体(推定雑種)を野外で発見したこと、さらに、サボテンミドリイシとトゲスギミドリイシから人工的に作出した雑種体(確定雑種)の妊性を明らかにしたことから、野外において雑種体が新しい種として存続できる可能性があると考えた。そこで本研究では、対象3種においてどの組合せの雑種体が生存できるかを検証するため、今までに得た各調査項目の結果を検討し考察を行なった。
 産卵時間は、サボテンミドリイシが他2種よりも15-20分程度早かった。受精率は、サボテンミドリイシとトゲスギミドリイシについては、どちら由来の精子と卵であっても40-60%程度であったのに対し、オヤユビミドリイシが関係する種間交配においては、0-60%とばらつくことがわかった。また、オヤユビミドリイシが関係するプラヌラ幼生は、他の組み合わせのプラヌラ幼生よりも有意に生存率が低いことが示された。さらに、確定雑種との形態比較と分子系統解析により、推定雑種はサボテンミドリイシとトゲスギミドリイシの雑種体である可能性が高いことがわかった。
 以上のことから、多種同調産卵するミドリイシのいずれもが雑種体を形成するわけではないことが示された。今後は、野外における対象種と雑種の生息分布・産卵状況の調査、詳細な分子系統解析を行なうことで、ミドリイシ属における雑種体形成と雑種種分化についてさらに明らかにしていく予定である。


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