| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-J-313 (Poster presentation)
東日本大震災に伴って発生した福島第一原発事故によって環境中に多量の放射性物質が放出された。原発周辺域では現在においても年間積算線量が20mSvを超える区域(国が定めるヒトの避難指示基準)が存在しており、そのような地域に取り残された野生動植物への影響が懸念されている。
放射線による影響の1つに、酸化ストレスによるDNA損傷が挙げられる。DNAへの損傷はその複製時に突然変異を引き起こす。この突然変異が生殖細胞で起こった場合、次世代に遺伝子変異を蓄積させる可能性がある。
発表者らはこれまでに、アカネズミ(Apodemus speciosus)の雄性生殖器官を用いた放射線影響評価を行い、年間積算線量が20mSv以上の地域で捕獲されたアカネズミの精巣ではDNA損傷が認められた一方で、その損傷に対する修復機能も作用していることを明らかにした。しかし、次世代への突然変異の継承が回避できているかは定かではない。そこで本研究では、メス個体に着目し、アカネズミの母親とその仔との遺伝子配列を直接比較することによって突然変異の蓄積を評価する試みを行った。
調査は試験区として福島県内で年間積算線量が20mSv以上の区域を、対照区として青森県および富山県を設定した。2012年より毎年、本種の繁殖期である夏季に捕獲を行い、2013年に偶発的に全調査区で捕獲された妊娠メスとその胎仔を供試した。
各地域において、一腹あたりの胎仔数に違いは認められなかった。また、mtDNA Dloop領域の配列について母仔間で比較を行ったところ、変異は認められなかった。発表ではさらに、ddRAD-seq (double digest Restriction Site Associated DNA Sequence)を用いたゲノムのSNP解析結果をもとに、母仔間でのDNA変異の有無について紹介する。