| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-J-315  (Poster presentation)

ハナザラにおける危険狭隘空間への適応

*山守瑠奈, 加藤眞(京都大学)

ニシキウズガイ科のハナザラは、らせん型の貝殻が主流のニシキウズガイ科の中にあって例外的に傘型の貝殻を持つ巻貝である。これまでの分布調査によって、ハナザラはウニの巣穴のみに生息しており、ウニの巣穴に絶対共生する種であることが明らかになった。ハナザラとウニの関係をさらに詳細に調べるために、和歌山県白浜町の番所崎において生態の異なる3種のウニ、タワシウニ・ツマジロナガウニ・ムラサキウニの巣穴における生物相の網羅的な調査、及び採集したハナザラの室内における行動観察を行った。野外調査の結果、ハナザラは穿孔性のタワシウニの巣穴や巣穴外の開放空間からは全く見出されず、巣穴を二次的に利用する借孔性のツマジロナガウニ・ムラサキウニの巣穴からのみ見出された。また、観察されたハナザラの約9割は巣穴の最奧部ではなく開口部付近のウニの棘が疎な空間に付着していた。室内実験では、ツマジロナガウニとハナザラを一緒に水槽に入れたところ、ハナザラがウニに追従する様子が観察された。ウニと巣穴壁面の間の狭隘な間隙は、ウニの存在によって外敵から身を守れる反面、棘による攻撃を絶えず受け続ける危険な空間である。ハナザラの寄主ウニの特異性は棘や口器との接触による損傷が大きい穿孔性のタワシウニを避けるものであり、借孔性ウニの巣穴における開口部付近の位置取りはウニの棘との接触を最小限にするためと考えられる。さらに、ハナザラの傘型の貝殻は、体高を低くすることでウニの棘の攻撃を緩和し、狭隘空間での住み込みに有利にはたらく適応形態であるという可能性が示唆される。これらの結果は、住み込み共生が貝殻の傘型化を誘発したという、軟体動物の形態適応の新な側面を明らかにする手がかりを与えてくれる。


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