| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-J-318  (Poster presentation)

魚拓の可能性:生物多様性情報としての活用方法の検討

*宮崎佑介(白梅学園短期大学)

 自然再生や生物多様性保全を目指す事業では、現在だけでなく、保全・再生目標となる過去の生物多様性情報の参照が欠かせない。しかし、過去の生物多様性情報を入手するための手段は限られる。たとえば、過去に発表された生物多様性にかかわる学術的資料の参照はその主要な手法になるが、情報量が限られるため、より詳細な情報を得るためには、現在までに保存されている資料・史料を再分析し、生物多様性情報を抽出(発掘)することも可能であろう。
 魚拓は、江戸時代後期に日本で発祥したと考えられる魚類の記録方法である。拓本印刷の技術を応用したもので、日本の釣り人の間に広く浸透してきた文化と言っても過言ではない。標本や解像度の高い写真に比して、その質は劣る可能性があるものの、対象種の形態情報が残されている。すなわち、種同定の正確性を担保し得る再検証可能な証拠資料とみなすことができる。また、釣り人によって残された魚拓には、釣り人の名前や種名だけでなく、漁獲された地点と年月日が記されていることが少なくない。そのような場所と時間のデータが付随する場合には、過去の生物分布情報として活用できる可能性がある。
 演者は、魚拓を過去の生物多様性情報として活用できるのかについて、以下の3点から検討・調査を進めている。
 1. 魚拓の形態情報の正確性:アオギス及びシロギスの魚拓における形態の比較を実施し、魚拓による種同定の可否を検討した。
 2. 絶滅危惧種の分布情報:宮崎県下の釣具店において、環境省レッドリストで絶滅危惧IB類に選定されているアカメ魚拓の保存の有無について、調査を実施した。
 3. 地域による対象種の変化:魚拓対象種の地域差について聞き取りを実施した。
 今回の講演では、これらの調査・分析結果の途中経過を報告するとともに、今後の課題や調査手法の在り方(市民科学プロジェクトとしての導入の是非等)についても議論する。


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