| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-J-320 (Poster presentation)
タブノキ属は東南アジアの低地・山地に広く分布する樹木である。種間で形態がよく似ており、花や実がない状態での同定が非常に難しく、分類学的研究が遅れている。本研究では、カンボジア産タブノキ属26サンプルを対象に、以下の点について研究した。(1)ITS配列においていくつの群(OTU)に分かれるか?(2)これらは花や実がない標本で区別可能か?(3)何種に分類できるか?
東南アジア各地(カンボジア、ラオス、ベトナム、タイ、ミャンマー、マレーシア、インドネシア)の調査で得られたタブノキ属の120サンプルについてITS配列を用いて近隣結合法による系統樹、ハプロタイプネットワークを作成した。花や実がない標本で観察可能な形質として、芽・葉脈などについて比較した。「系統的に姉妹関係になく、形態的に区別可能で、同所的に生育する群」という基準で種を判定し、既知種のタイプ標本と比較した。
ITSハプロタイプネットワークにおいて、カンボジア産26サンプルは姉妹関係にない6つの群に分かれた。これら6群は、花や実がなくても、芽の形態(裸芽か鱗芽か)、芽・葉・枝の毛、葉脈の数と形状によって区別できた。裸芽か鱗芽か(枝上の芽鱗痕によっても判別できる)、三次脈が階段状か網状かなどが群の区別にとくに有用だった。6群のうち4群はBokor山に、2群はSeima周辺に同所的に見られた。
これらは上記の基準にもとづき6種に分類された。これらは既知種のいずれとも一致せず、すべて新種であった。6群のうち1つはCardamon山地とBokor山に分布し、形態的に明瞭に区別できた。これらは2亜種とも2種とも考えられる。
上記120サンプルのハプロタイプネットワークは、東南アジア各地にさらに多くの新種があることを示唆している。