| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-J-322 (Poster presentation)
1960年以降、マレーシアやインドネシアをはじめとする熱帯林では大規模な商業的伐採が低地から高標高地まで広く行われてきており、過度の生態系利用が生物多様性に及ぼす影響が懸念されている。そのため、伐採攪乱の種多様性への影響について研究が行われてきたが、これまでの研究の多くはプロット内の多様性(α多様性)に着目しており、大きなスケールでの多様性(β、γ多様性)に着目した研究はほとんどない。また原生的な森林においては、標高傾度に沿って樹木群集が入れ替わる(回転する)ことが知られているが、標高傾度に沿った種の回転に伐採がどのような影響を与えるのかはわかっていない。そこで本研究は、標高傾度に沿った熱帯樹木種の回転率に伐採攪乱が与える影響を解明することを目的とした。研究対象地はマレーシア・ボルネオ島のトゥルス・マディ山である。標高285mから1105mにかけて一定標高毎に、原生林から重度劣化林まで劣化度の異なる複数の林分を選び、半径20mの円形プロットを置いた。プロット内のDBH10cm以上の個体のDBH及び樹種名を記録した。現存バイオマス量は林分が過去に受けた攪乱強度を反映すると考えられるので、プロット毎のバイオマス量に基きプロットを3つの森林劣化度(Mature, Intermediate, Disturbed)に分類した。任意の2プロット間の標高差と植生の非類似度の関係を調べ、標高差による植生の非類似度の増加率(種の回転率の指標)が森林の劣化度によりどう変化するかを解析した。劣化した森林(Disturbed)では原生的な森林(Mature)と比較して、標高に沿った種の回転率が有意に小さくなった。劣化した森林では優占する先駆種の標高域が広く、このため平均回転率が低下したと思われる。大規模な伐採撹乱は、標高傾度に沿った種の回転率を低下させ、地域的な多様性を低下させる可能性が示された。