| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-N-390 (Poster presentation)
島根県の落葉広葉樹林の下層にはしばしばチュウゴクザサが密生して繁茂する。落葉広葉樹の下層に繁茂するササ類が林木の更新を阻害することはよく知られているが、立地の物質動態への影響についての研究は少ない。本研究では、下層に繁茂するチュウゴクザサの刈払いを行い、土壌水の養分濃度の変化を5年間追跡調査し、下層植生除去による物質動態への長期的な影響を考察した。
島根大学三瓶演習林内の落葉広葉樹二次林にて、斜面中腹および下部に5×5mの調査区を設置し、2012年6月に下層のササを刈払った。また、隣接する場所に対照区を設けた。土壌の深さ30cmにポーラスカップを設置し、土壌水を毎月採取し、各種イオン濃度を測定した。
土壌水中のMg、Ca、Cl、SO4の濃度は、下層植生の除去の有無にかかわらず明瞭な季節的変化を示した。また、NO3とSO4の濃度は、下層植生の除去により濃度の変動が大きくなった。下層植生の除去により、Na・K・SO4は比較的早い段階から土壌水中の濃度の増加が認められたことから、これらの物質は土壌からの流亡が早期に起こると考えられる。土壌水中のMg・Caの濃度は3年目以降の生育期に増加していた。これらのイオンは4年目の冬季にも対照区と比較して増加していた。NO3は、2年目および4年目の冬季と3年目以降の生育期に下層植生の除去による増加が見られた。また、他のイオンに比べ、増加の程度が大きかった。ササ類はNO3の吸収同化が盛んであり、チュウゴクザサは生育期にK・Mg・Caの含有量が増加することが報告されている。ササによるこれらの物質の吸収が下層植生の除去によって抑制された影響は数年後に大きくなり、冬季も持続すると考えられる。