| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-N-393 (Poster presentation)
2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所爆発事故によって,広範囲にわたる森林が放射性物質で汚染された。事故発生から6年が経とうとしているが,現在も森林とそこに生息する動植物の放射性セシウム(Cs-137)汚染は続いており,このような状況において,森林の放射性セシウム汚染に関する継続的調査は欠かせない課題である。土壌中に存在するCs-137の化学形態として,粘土鉱物結合態が知られているが,他にも可給態(イオン交換態)のCs-137が存在する。可給態Cs-137は,植物や動物が取り込むことができる性質を持っているため,動植物のCs-137汚染に密接に関わり,食物連鎖を通じて森林内を循環しうる重要な化学形態であると考えられる。可給態の放射性セシウム量を評価できれば,広域の様々な林分において,土壌特性によらず,森林汚染実態および生息動植物へのCs-137移行・循環についての把握が可能になると考えられる。そこで本研究では,各地で普通にみられる造網性クモの一種ジョロウグモのCs-137濃度を用いて,生息地土壌中の可給態Cs-137量の簡便な評価方法の確立を試みた。ジョロウグモは,産卵期にあたる2016年10月に福島県の森林域9カ所(伊達郡川俣町および双葉郡葛尾村と浪江町)において採集し,生息場所周辺の土壌サンプルもあわせて採取した。ジョロウグモは凍結乾燥後に粉砕し,Cs-137濃度を測定した。土壌サンプルは30ºCで乾燥後,1 m2あたりのCs-137存在量を算出した後,同サンプルを酢酸アンモニウムで抽出し,交換態Cs-137を評価した。ジョロウグモのCs-137濃度と生息地土壌のCs-137存在量,および交換態Cs-137量との関係を評価し,ジョロウグモの放射性セシウム濃度によって生息地の可給態Cs-137量が推定可能かどうかを検討した。