| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-N-395  (Poster presentation)

菌根菌糸の呼吸速度測定手法の開発

*今井伸夫(東農大 森林), 安宅未央子(森総研 関西), Holger Schaefer(京大 地環), 吉村謙一(京大 農), 小南裕志(森総研 関西)

土壌からは、土壌微生物・植物根・菌根菌の呼吸をとおして大量のCO2が放出されている。この土壌呼吸速度の規定要因を明らかにすることは、土壌炭素動態の理解や気候変動予測の上で重要である。土壌微生物や植物根圏の呼吸については、これまで多くの研究が行われてきた。しかし、菌根菌の呼吸は、生理活性を保ったままホスト(植物根)から菌根菌糸を分離するという技術的困難さを伴うため、ほとんど測定例がなかった。そこで本研究は、1)イングロース・コアを用いた静的測定法と2)自動開閉型チャンバーを用いた連続測定法という、2つの菌根菌呼吸測定法の開発を目的とした。
測定は、森林総研関西支所の京都府山城試験地において行った。1)では、菌糸のみ通り抜けられる40μmメッシュ(根は太くて通れない)でできたイングロース・コアをコナラとアラカシ樹冠下に埋設した。腐生性微生物のコンタミ回避のため、埋設区の表層土を、炭素放出がほぼゼロの真砂土に置換した。約4か月後にコアを掘り取ってコアからのCO2放出速度を測るとともに、菌根菌糸のバイオマス指標、太さや長さを抽出菌糸の顕微鏡画像から算出した。2)では、底が蓋された塩ビパイプ(φ10cm)に4 方向から5×5cm の窓を開け、窓部に40μm メッシュシートを張り、これをコナラ樹冠下に埋設した。パイプ内部と周辺土壌は、真砂土に置換した。パイプ内真砂土からのCO2放出速度を、自動開閉型チャンバーを用いて連続測定した。
数か月の培養で1)コアや2)パイプ内に菌根菌糸が入り、その呼吸速度を測定できた。1)では、呼吸速度とバイオマスとの間に正の相関がみられた。コナラとアラカシ間で、菌糸の呼吸速度、バイオマスや太さに違いが見られた。2)では、呼吸速度の季節変化(夏高く冬低い)や日周変化(昼高く夜低い)が観察された。このように、本手法により菌根菌呼吸を野外で高精度連続観測できることが分かった。


日本生態学会