| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-N-397 (Poster presentation)
世界各地では、栽培作物だけでなく多様な野生生物が食されており、個々の摂取量は小さいものの一定の量が食べられている。野生生物資源にも人間の生命活動に不可欠な微量元素が含まれているが、どの程度人々の健康と環境適応に寄与しているかは明らかとなっていない。ラオス・ルアンナムター県ファイダム・ファイフォム村は、山間部で焼畑を営み、陸稲、キャッサバ、キュウリ等の栽培や、川のり、コオロギなどの野生生物の採集を行っている。また、パプアニューギニア(PNG)・クラインビット村は、セピック川支流ブラックウォーター地域の泥炭地質に立地し、サゴヤシからサゴ澱粉やサゴムシの幼虫の採取、漁撈等を営んでいる。本研究では、栄養摂取源を野生生物に依存する村民の環境適応を栄養学的側面から理解するための基礎的知見を得ることを目的とし、上記2つの異なった自然環境下で生業を営む地域において、食材からのミネラル摂取を微量元素バランスの視点から評価した。調査は、2010年にラオス、2011年にPNGで行った。現地で食されている主食、昆虫、魚類、野菜、果物、加工食品等を採取し日本へ持ち帰った。食材を凍結乾燥させ含水率を算出した後に粉砕し、硝酸-過酸化水素により湿式分解した。多量必須元素、微量元素濃度をICP-MSまたはICP-AESにより測定し、生重100 gあたりの元素含有量を算出し、食材毎にNa, K, Ca, Mg, Zn, Fe, Mn, Cuの元素バランスを評価した。
その結果、ラオスでは、主食の米(Na, Caを除く)と一部のウリ科を除く野菜類(Naを除く)が微量元素バランスに優れており、動物系食材の中でもコオロギはMn摂取に重要である可能性が示唆された。一方PNGでは、サゴ澱粉のミネラル含有量が低かったが、Fe, Zn, Cuが豊富な魚や昆虫を摂取することで微量元素を補うことが可能であることが示され、村民はその環境下で採取される様々な食材を通して不足するミネラルを補っている可能性が示された。