| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-N-399 (Poster presentation)
森林土壌中の有機物の堆積量やその分解によるCO2放出速度は空間的に不均一であることが知られているが、その偏差やメカニズムの解明には有機物量や水分、化学組成の面的な把握が重要である。従来の研究手法はサンプリングを介した室内分析が主流であり、簡便かつ面的な評価法の開発が期待される。本研究では、近赤外分光法に注目し、土壌有機物組成の空間分布を野外で評価する手法の開発を目指して基礎調査を実施した。未成熟火山灰土壌に立地する北海道大学苫小牧研究林において、9樹種(針葉樹5種、落葉広葉樹4種)の林床からリターおよび2深度(有機物層、鉱物層)の土壌を採取し、その微生物呼吸速度とリグニン、セルロース、全炭素、窒素の濃度および1~2.5μmの連続分光反射率を計測した。土壌の微生物呼吸速度をチャンバー法で測定した後、含水率を湿潤~風乾状態まで段階的に変化させながら人工光照射下で分光反射率を計測し、乾燥後に化学組成を分析した。リターや土壌の有機物組成には樹種間差があり、常緑針葉樹(アカエゾマツ、ヨーロッパトウヒ等)のリターは落葉広葉樹(イタヤカエデ、ミズナラ等)よりも窒素濃度が低く、その有機物層の土壌は落葉広葉樹よりも高い濃度の全炭素、セルロース、リグニンを含んでいた。一方、23℃条件の微生物呼吸速度は、全樹種に共通して全炭素濃度やリグニン、セルロース濃度と高い正の相関関係にあった。分光反射率を用いたPLS回帰により有機物濃度の予測モデルを作成し精度評価を行ったところ、湿った試料(平均含水率44%)と風乾した試料(同4%)の推定精度に大きな差がなく、例えば、全炭素の場合、平均値に対する相対RMSEはそれぞれ、15%、22%だった。これらの結果は、土壌有機物の樹種間差や深度方向の差異は湿潤な野外試料の分光計測からも検出可能であり、微生物呼吸のポテンシャルも間接的に推定できることを示している。