| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-N-403  (Poster presentation)

近似ベイズ計算を用いた放射性Cs動態モデル”FoRothCs”のパラメータ推定

*仁科一哉, 林誠二(国立環境研究所)

 2011年の福島第一原発所の事故によって、環境中に放射性物質が拡散した。放射性Csの沈着域の多くが森林生態系であり、特に人工林が広く分布している。チェルノブイリ事故後、複数の放射性Csの森林動態モデルが開発されているが、バイオマス成長や森林施業まで考慮されていなかった。そこで筆者らは、人工林の管理等を組み込んだ森林生態系内の放射性Cs動態を予測するため、FoRothCs(Forest Roth-C and Cs)モデルを開発した(FoRothCsはRの関数としてオープンソースとして配布している; Nishina & Hayashi, 2015)。本モデルは、人工林のバイオマス生産および炭素循環をベースとして、森林生態系内の放射性Cs分配を予測するモデルである。
 本研究では、林野庁および森林総研が行った森林内の放射性物質の分布状況調査の5年間(2011−2015)の観測結果を用いて、逐次モンテカルロ法を用いた近似ベイズ計算(ABC-SMC)を利用してFoRothCSモデルのパラメータ推定を試みた。観測結果は、4つの異なる放射性Cs沈着量を示すサイトのスギ林サイトのデータを使用し、それぞれのサイトについて個別にパラメータ推定を行った。推定するパラメータは、根系からの137Cs吸収速度、落葉時の放射性Cs回収率、木部から葉への転流速度および、リター分解に伴う放射性Csの上方移動速度とした。また適切な要約統計量を検討するため、距離の計算に放射性Cs濃度の時系列データを直接用いた場合と、生物学的半減期を用いた場合の二通りを要約統計量として用いた。
 推定したパラメータは、実測から定量的な情報を得ることが難しいプロセスだが、いずれの要約統計量を利用しても、ABC-SMCにより妥当な推定が可能であった。一方、濃度を要約統計量とした場合、生物学的半減期を過小評価する傾向にあった。


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