| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-N-407 (Poster presentation)
熱帯沿岸域に分布するマングローブ林は、森林生態系の中でも生態系純生産量 (NEP) が特異的に高い値を示すことが知られている。これは、土壌表層が定期的に冠水することで嫌気的環境となり、土壌有機物の分解にともなう炭素放出量(従属栄養生物呼吸;HR)が低くなることが一因である。しかし、これまでこれらのHRは簡易的な測定によりおよその年間値が推定されているものの、その時空間的不均一性についてはほとんど考慮されておらず、結果としてNEPの評価に大きな問題を残している。本研究では、2013年から約3年間に渡り石垣島吹通川流域の林分を対象に土壌呼吸速度の測定を行った結果をもとに、マングローブ林における土壌呼吸速度の時空間的不均一性について考察した。
空間的不均一性について、土壌呼吸速度はUca属やPeriophthalmus属といった生物の巣穴の影響により、近接した対照区に比べて1.3倍ほど高くなることが示された。また同一流域内においては、樹種や土壌組成といった森林構造に差があるものの、土壌呼吸速度に有意な差は認められなかった。さらに他地域のマングローブ林の測定値を含めたメタ解析においては、マングローブ林の年間土壌呼吸量は共通して陸域生態系より低い値を示した。一方、時間的不均一性について、土壌呼吸速度は地温とともに緩やかに変化するほか、浸水や露出の瞬間に一時的に増加する現象や土壌の浸水時には露出時の約3割程度が水面から大気へ放出されることが示された。また、季節的には地温の影響よりも潮位変動にともなう土壌表面の露出時間の増加により、冬期の土壌呼吸量は夏期と同程度と見積もられた。これらの結果は、従来考えられていたマングローブ林における土壌呼吸の動態とは大きく異なり、年間土壌呼吸量が過小評価されていることを示唆するものである。