| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-N-411 (Poster presentation)
宮城県気仙沼湾では2011年の東日本大震災による津波から2年後に麻痺性貝毒原因渦鞭毛藻Alexandrium fundyenseが大量発生し,マガキやホタテガイの出荷規制値を超える高毒化が24年ぶりに確認された。津波に伴う海底の攪乱によって本種のシスト(休眠細胞)が海底表層に再集積したことが一因と考えられているが,震災後の本種の出現量は年によって大きく異なるため,震災後の湾内の水質環境の変化も本種の出現量に影響している可能性がある。しかしながら,河川や海の水質時空間分布に対する津波の影響については明らかにされていない。そこで本研究では,気仙沼湾及び主要な流入河川(大川・鹿折川)において震災前後の水質の変化を解析した。気仙沼市街地を通る大川の河口では,震災後に河川水中のアンモニア態窒素(NH4+-N)濃度が上昇した。これは,河口付近にある終末処分場が被災し,復旧した住宅や水産加工施設からの排水が十分に処理できず排出されたためと考えられる。気仙沼湾では震災後リン酸態リン(PO43--P)の濃度が低下した。湾奥底層の溶存酸素(DO)濃度に関して,震災前は夏季にしばしば貧酸素化していたものが,震災以降,貧酸素化が認められなかった。また,湾内のPO43--P濃度が低下傾向を示し,津波に伴う海底攪乱と海水交換による底質の改善が,底質からのPO43--P溶出を減少させたものと推察された。A. fundyenseが大量発生した際の湾内では,NH4+-N濃度の上昇,PO43--P濃度の低下によって無機態窒素/無機態リンの比(DIN/DIP)が上昇した。高DIN/DIPは,珪藻類よりも渦鞭毛藻類のブルームに好適な水質環境であり,Alexandrium属の強毒化を招くことが指摘されている。以上のことから,震災後の気仙沼湾における流入河川流域・海域の環境変化によってAlexandrium属の優占しやすい水質環境が形成され,A. fundyenseの大規模な発生を招く一因となった可能性が考えられる。