| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-O-417  (Poster presentation)

低標高生育地におけるコケモモ(Vaccinium vitis-idaea)の個体群維持機構の解明

*和久井彬実, 工藤岳(北海道大学環境科学院)

間氷期の現在、日本列島が分布南限となっている多くの寒冷適応種が存在する。分布南限周辺における寒冷適応種の個体群動態は、気候変動に対する生物の応答を知る上で重要である。コケモモ(Vaccinium vitis-idaea)は代表的な寒冷適応種であり、森林限界以高の高山帯が主な分布域である。しかし北海道においては、森林帯の風穴地や海岸においても局所的に分布がみられる。風穴地や海岸の個体群は一般に小規模で隔離されており、高山帯とは生育環境も大きく異なる。このような環境下でどのようにコケモモ個体群が維持されているかは不明である。本研究では、高山帯、風穴地、海岸の3タイプの生育地のコケモモ個体群の繁殖特性を比較し、低標高個体群の維持機構を解明することを目的とした。

2016年の6月から9月にかけて、高山帯3か所、風穴地5か所、海岸3か所の計11の個体群で野外調査を行った。各地点でコケモモ50個体の花序当たりの花数、結実数、果実当たりの種子数、当年枝伸長量を測定し、生育地タイプ間で差がみられるか、一般化線形混合モデルを用いて解析した。また、各個体群で10〜16個体から葉と果実を採取し、マイクロサテライトマーカーを用いた遺伝子解析により遺伝構造と他殖率を求めた。

結果率と種子数については、生育地タイプ間の差はみられず、低標高個体群においても高山帯個体群と同程度の種子生産が行われていることが明らかになった。遺伝子解析の結果、高山帯個体群では他殖による種子生産がほとんどであったが、風穴地と海岸個体群では、自殖種子が比較的多く生産されていた。すなわち、低標高域に生育するコケモモは自家和合性があり、高山帯とは異なる交配様式を有している可能性が示された。また、風穴地個体群と海岸個体群では、当年伸長量が高山帯よりも大きく、少数のジェネットが比較的広範囲にクローン集団を形成している個体群もみられた。


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