| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-O-420  (Poster presentation)

地域的多様性を高めるメカニズムとしての土壌リン傾度に沿った熱帯樹木のニッチ分割:山型分布種の存在と意義

*青柳亮太(京都大学), 今井伸夫(東京農業大学), 日高周(京都大学), 北山兼弘(京都大学)

熱帯林において、土壌リンは生産性のみでなく樹種の分布を制限し、群集の構造を決定する重要な環境要因である。そして、土壌リン傾度に対する樹種間の棲み分けは、熱帯の高い樹木多様性を説明する機構の一つと考えられてきた(ニッチ仮説)。しかし、その一方で、地域内(例:ボルネオ全域)のリンのバリエーションによってどれだけの樹種が棲み分けできているのかを研究した例はほとんどなく、土壌リン傾度が地域的な種多様性に与える影響は十分に評価されていない。パナマにおいて行われた研究では、非常に広いリン傾度を利用したにも関わらず、高・低リン環境それぞれに特化した種がみられた一方で中程度の土壌リン濃度に特化した種(山型の分布を示す種)が存在していないことが示された。もしこの結果が一般的であれば、土壌リン傾度に沿ったニッチの細分化は、熱帯林の多様性を説明する上で限定的な効果しかもたないことになる。

本研究は、ボルネオ島の熱帯林を対象に、土壌リン傾度に沿った樹木種の棲み分け(山型分布種が存在するか)を解明することを目的とした。マレーシア・サバ州の標高700m以下の低地熱帯林に設定された50の植生プロット(面積>0.12ha)のデータを利用し、優占種の分布に対する気候条件(温度、降水量)と土壌栄養(全リン、可溶態リン、CN比など)が及ぼす影響を解析した。

本研究サイトの土壌の全リン濃度は50–550 µg g-1であり、これまでのボルネオ熱帯林で報告された土壌リンの値をカバーしていた。また、先行研究とは対照的に、いくつかのフタバガキ科樹種が中間程度の土壌リン環境で優占度が最大となることが示された。これらの結果は、ボルネオ熱帯林の樹木において、土壌リン傾度に沿ったニッチの細分化が見られることを示唆しており、土壌リンの地域内バリエーションが熱帯林の高い種多様性を生み出す重要な要素である可能性が明らかになった。


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