| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
シンポジウム S04-1 (Lecture in Symposium)
東南アジアには,インドネシアを中心として約25万km2に及ぶ熱帯泥炭林が広がり,数千年にわたって膨大な量の炭素を泥炭として蓄積してきた。しかし,近年の森林伐採や排水をともなう大規模なプランテーション開発により,泥炭の好気的分解が促進されるとともに泥炭火災が増加し,熱帯泥炭林は巨大なCO2排出源(ホットスポット)として注目を集めるようになった。そのため,土地利用変化にともなう環境変化を評価し,熱帯泥炭林からのCO2排出量を定量化することが強く求められている。しかし,フィールド観測に基づく科学的な知見が不足しており,CO2排出量の推定には大きな不確実性が残されている。われわれは,この不確実性を低減するために,熱帯泥炭生態系の炭素収支を定量化するとともに,その変動特性や環境応答を明らかにすることを目的として,インドネシア・中部カリマンタン州(ボルネオ島)の人為撹乱の程度が異なる3つの生態系(未排水の泥炭林,排水された泥炭林,泥炭林の火災跡地)において,渦相関法とチャンバー法により,大気と生態系の間のCO2交換速度(フラックス)の連続観測を15年間にわたって継続してきた。主要な成果は以下の通りである。 1)人為的影響(泥炭火災時に大量に排出される煙霧による遮光など)により,未排水の泥炭林であっても正味のCO2排出源(ソース)になっており,熱帯泥炭林へのさらなる泥炭炭素の蓄積が期待できない可能性が高い。2)熱帯泥炭林全体のCO2収支は地下水位に強く依存し,年平均で地下水位が10 cm低下すると熱帯泥炭林全体から排出されるCO2が炭素換算で年間約50 gC m-2 y-1増加する。3)また,年平均地下水位の10 cmの低下は,好気的分解によるCO2排出量を年間で約90 gC m-2 y-1増加させる。