| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
シンポジウム S14-3 (Lecture in Symposium)
海外だけでなく、日本でも「グリーンインフラ」という概念が、幅広い分野において、注目されつつある。グリーンインフラとは、自然の多様な機能を活用するインフラ整備、土地利用の考え方であり、国土利用計画等、国の様々な計画文書に記載され、民間企業の事業にもなりつつあり、いわゆる一般の社会にも普及しつつある。しかし、グリーンインフラの考え方は、生態学と関わりの深い「自然保護」や「生物多様性保全」と大きな関わりがあるが、一線を画す部分もある。これらの違いについて、双方の概念から見ると、自然保護は、当然自然や生物を守ることが目的となっているが、グリーンインフラは、そうではない。自然の多様な機能、生態系サービスを社会・経済活動に活かすことに重きが置かれている。すなわち、グリーンインフラとして捉えることで、目指すべき到達点が「自然」から「人間」に置き換わり、「生態系保全」を手段として捉えている点で大きな変化と言える。実際、生物多様性、生態系保全の議論においては、グリーンインフラという言葉を持ち出すまでもなく、「森里川海」や「自然資本管理」など、生態系保全のための保全から、自然資源の活用のための保全というアプローチが重視され始めている。このような自然資源の活用を重視した考え方は、自然保護への無関心層の理解促進や、農山村の管理水準低下等の生物多様性の第2の危機への対策、さらには地域経営の持続可能性の確保においても有用であると期待されている一方で、土木・建築、経営・経済等、多様な分野とのかかわりが増える中、生態系の保全と活用の関係性の把握は従来以上に求められる。本発表においては、グリーンインフラという概念を紹介しつつ、今後の課題を整理した上で、これを推進する上で必要となる取組や、生態学の関わり方について議論したい。