| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-030 (Poster presentation)
生物学的種概念に基づく「種分化」とは,分断された集団間での生殖的な隔離機構の進化であり,集団が分断してから異なる種に至る分化メカニズムとされる.生殖的隔離により種分化が成立すると,種間では様々な形質に急速な変化が生じると予想される.その結果として,現在のような多様な生物相が創出されてきた.つまり,独立した集団がどのようにして分化し,生物多様性が創出されてきたのかを探ることは,進化生物学における最も重要な課題である.本研究で対象とするガガンボカゲロウは日本固有科であり,1属2種と極めて小さな分類群を構成する.限定的なハビタットである山岳源流域に適応し,分散力も低いため,本種群のハビタットは孤立・散在的となりがちである.これらの要因が深く関係し,本研究では地域集団レベルでの極めて顕著な遺伝的分化を検出してきた.このような地域集団レベルでの遺伝的分化の大きさは,他のカゲロウ類における種間レベルの分化にも相当するにも関わらず,外部形態などの分類の鍵となるような形態形質に差異は認められていない.そこで,本研究では「ハンドペアリング」法を用いた繁殖実験の手法を開発し,さらに,繁殖実験の成功を分子同定によって検証する方法も確立した.「ハンドペアリング」法を用いた繁殖実験の結果,これらの遺伝系統群が種レベルの分化に相当するような結果も得られた.従来の形態分類では1種として扱われるガガンボカゲロウ種内には,生殖的隔離機構の様々な段階を示す複数の遺伝系統群が包含されていることが明らかとなった.「種分化連続体」と呼ばれるような,進化生物学研究における重要なkey taxaになりうる種群であり,種分化機構や多様化機構の検討における興味深い知見を提供し得る.永い期間の分集団から種分化に至るメカニズムとその様々な過程について議論する.