| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-035 (Poster presentation)
気候変動に起因する降雨規模・頻度の変化は,植物の生育や種の相互作用への影響を介して,生態系機能に変化をもたらすことが危惧されている.このような環境変動に対する生態系の頑健性を検証するため,草原生態系をモデルとして生物多様性と生態系機能の関係性が多くの操作群集で研究されてきた.近年の研究では複数の生態系機能を同時に考慮すると,複数の機能を考慮しない場合に比べて生物多様性の効果はより大きくなるという多様性と多機能性の関係が報告されている.本研究では,先行研究に乏しい自然草本群集において降水量操作を実施して,植物多様性が生態系の多機能性に影響するメカニズムを検証した.
2015年7月に北海道北部に位置する北海道大学天塩研究林の草原に調査地を設定した.2016年以降は,レインアウトシェルターを用いて植物の成長期である5月から11月の降雨量を調整した.降水量を50%減らした干ばつ区,50%増やした増雨区,調整していない対照区を設定した.2015-2017年の8月に植物の種組成と,生態系機能の指標として,地上部バイオマス,リター堆積量,地下部バイオマス,初期分解速度k,炭素隔離潜在性S,土壌無機態窒素量,土壌炭素量,土壌呼吸速度を計測した.また環境要因として土壌含水率とpHを測定した.シミュレーションにより高機能種の存在を示唆する種の重要性効果(Mori 2018 J Ecol)を算出した.群集全体で自然群集における環境の差異を考慮しつつ植物種数並びに種の重要性効果と多機能性の関係を解析した.
植物種数と種の重要性効果は有意な正の相関関係を示した.自然群集において植物種数の高い群集には高機能種が含まれている可能性が高いという先行研究の結果と一致している.また,種の重要性効果と多機能性は有意な正の相関関係を示した.本研究は極端な気象現象下おいても植物種数が種の重要性効果を介して生態系の多機能性を維持し得ることを示唆した.