| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-041 (Poster presentation)
長野県伊那市の水田地域におけるクモ類群集の構造と
立地環境条件との関係に関する研究
山本 悠人 (緑地生態学研究室)
近年、二次的自然の代表である水田地域での生物多様性の低下が問題とされており、その影響はクモ類群集にも及んでいると考えられる。クモ類は生態系の栄養段階における中間捕食者にあたり、水稲害虫の天敵として農業への有効性が認められているが、本分類群の生物多様性保全に関する研究は少ない。そこで本研究では長野県伊那地方における異なる水田地域でのクモ類群集の構造や立地環境および農法との関係性を解明し、保全策を検討することを目的とした。
調査地域は伊那盆地の北部に位置し、内陸性気候である。立地条件では、市街地として標高670mのA地区を、中山間地として標高880mのB地区を設定した。調査地区は市街地では直径500m円内、中山間地では同面積の楕円内とした。
クモ類の群集調査は2017年の8、9、11月に各1回実施した。市街地に有機水田5筆と慣行水田5筆、中山間地は有機水田2筆、慣行水田3筆を選抜した。また、各水田の1畦畔に1㎡のプロットを3つ設置した。小型掃除機を用いた吸い取り法で1㎡のプロット内を3分間吸い取り、クモ類を捕獲し、同定した。
群集調査と同時に、畦畔においてプロット内の植生の植被率、優占種の種名、植物高を記録、測定した。また周辺の土地利用との関係性を調べるために、調査範囲内を踏査しながら、地図を用いて各土地利用区分の状態を記録した。
3回分の吸い取り調査により、出現したクモ類は18科29属1248個体であった。市街地で13科20属、中山間地で17科20属が出現した。出現種群の中では全体の34%がコモリグモ科で、最も割合が高かった。また、次いで割合が高かったのは、31%のアシナガグモ科だった。TWINSPAN解析およびJACCARDの類似度の結果から、全水田は、概ね市街地と中山間地に分類された。クモ類の群集構造は畦畔の植生や周辺の土地利用などの生息環境の違いで異なると考えられた。