| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-043 (Poster presentation)
環境DNA分析では、一般的にmtDNAの短鎖断片を解析することで、マクロ生物の在不在や生物量、種組成の推定が行われている。マクロ生物の環境DNAから長鎖断片の検出に成功した研究例は僅少であるが、これが可能となれば水を汲むだけで種内の遺伝的多様性を評価することや、複数の遺伝領域についての情報を同時に得ることができ、環境DNA分析の利用拡大に大きく貢献できると期待される。この解析を可能にするためには、僅かながらも存在していると考えられる長鎖断片を適切に増幅するためのPCR条件の最適化が必要である。そこで本研究では、環境水から魚類のmtDNA全長を増幅できるPCR条件の検討を行った。まず、ハスの組織試料及びカワムツの飼育水から得たDNA試料を対象としてPCR条件を確認した。その結果、16S rRNA領域に設計された魚類のmtDNAを一度のPCRで全長増幅できる既存のプライマーセットとPCR酵素 KOD FX Neoを用いたステップダウンPCR(アニーリング温度:74~68℃)による増幅で目的産物の単一バンドが確認された。次に、京都市の宇治川と木幡池で採取した環境水からの増幅試験を行った。35, 40, 45, 50サイクルでPCRを行ったところ、45, 50 サイクルの増幅産物では両試料から目的断片長の増幅が確認された。非特異的増幅やスメアが少なかった45サイクルの増幅産物を元試料として、どのような魚類のDNAが含まれているのかを知るためにメタバーコーディングを行った。その結果、宇治川の試料ではコイやカワヨシノボリなど5種が検出され、木幡池の試料ではゲンゴロウブナやモツゴなど4種が検出された。本研究により、環境DNA試料に全長サイズの魚類mtDNAが含まれていることが明らかになった。今後は複数種のDNAが混在している試料から長鎖断片のDNAを高精度に解析できる手法について検討していく。