| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-046 (Poster presentation)
河川の魚類群集構造の季節変化を知ることは水産資源の管理を行う上で重要である。だが、大規模な河川においては捕獲による調査で十分な情報を得るには膨大な労力がかかる。このような調査課題を解決しうる手法として、環境DNA分析が挙げられる。本研究では、次世代シークエンサーによる網羅的な検出を行う環境DNAメタバーコーディング法により、季節変化する魚類群集構造を把握し、河川環境との関係性を見出すことを目的とした。
2014年3月から翌年3月に愛知県矢作川全域を対象として、月に一度、環境DNAによる調査を実施した。河口域から2~5km間隔に1Lずつ採水を行った(合計29地点)。環境DNAを抽出後、ミトコンドリア12S領域を対象として、メタバーコーディングを行った。対象領域上で種判別が不可能な種は解像度を落として同定した。その結果、94種類の魚類が検出された(うち、76が種まで同定)。過去に実施された魚類相調査と対応する地点では、捕獲事例のある種のうち約8割の種が検出された。また、回遊性魚類の検出パターンがその種の遡上に関する知見と一致し、環境DNAメタバーコーディング法は魚類の季節に関わる移動を検出可能な手法であることが示された。加えて、対象とした回遊性魚類の検出パターンは河口から一つ目の堰が多くの回遊性魚類の遡上を困難にしている可能性が示唆された。また、河川環境が魚類群集構造に与える影響を調べるため、PerMANOVAによる解析を行った。中流域と下流域ではその境界である一つ目の堰、上流では主に河川の平均勾配と平均水温や堰が河川の魚類群集組成を変化させる大きな要因であった。以上の結果から、下流域では回遊性魚類の移入・移出や、上流であれば温度依存的なサケ科魚類の分布の変化など、流程ごとに様々な要因が複合的に魚類群集の組成に影響し、河川全体の魚類群集構造を形成していることが示された。