| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-053  (Poster presentation)

氷期後のブナの分布変遷が樹上性昆虫の群集構成と遺伝的分化に与える影響

*木村彰宏, 池田紘士(弘前大学)

 樹上性昆虫は、多様な分類群から構成され、森林生態系の節足動物のうち大部分を占めている。樹上性昆虫の群集や多様性の形成要因はまだ分かっていないことも多いが、歴史的な要因は同じ地域に生息する生物には類似した影響を与えたと考えられる。そこで、ブナの逃避地が複数存在したことが示唆されている青森県で、樹上性昆虫の群集形成や種分化に氷期後のブナの分布変遷が影響を与えてきたという仮説を立て、その検証を行った。
 群集解析のために逃避地に近い地点から逃避地から離れた地点まで連続的に8つの調査区を設定した。各調査区に50mのライントランセクトを設定し、トランセクト上のブナの葉に対して30分間スイーピングを行った。採集は2015年と2016年の6月から9月に一か月に一回ずつ行った。群集の非類似度の計算にはchao指数を使用し、地理的距離と群集の非類似度の相関をMantel検定によって調べた。さらに、分布拡大の方向性を明らかにするために、ブナの逃避地に近い調査区から離れた調査区に向かって入れ子構造になっているかをランダマイゼーションテストで検定した。その結果、有意に正の相関があることと、ブナの逃避地に近い調査区の群集に対して逃避地から離れた調査区の群集が入れ子構造になっていることが明らかになった。さらに、群集を植食性と肉食性に分け、分類群ごとにMantel検定を行ったところ、植食性のカメムシ目にのみ正の相関が認められた。また、遺伝子解析には、ブナ林で主に優占していた肉食性昆虫であるジョウカイボン科Asiopodabrus属を使用した。新たに6つの調査区を追加し、2017年の6月と7月に採集を行った。CO1領域を使用して遺伝的距離と地理的距離に相関があるかMantel検定を行ったが、有意な相関はなく、ブナの分布変遷の影響は認められなかった。
 以上のことから、ブナ林では氷期後のブナの分布変遷に伴って樹上性昆虫が分布を拡大し、その中でも植食性のカメムシ目が強く影響を受けることが示唆された。


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