琉球列島には、互いに構成種が大きく異なる非石灰岩性と石灰岩性の2つの常緑広葉樹林が存在する。非石灰岩性森林の表徴種であるアカネ科ボチョウジ属のボチョウジ（Psychotria rubra）と、石灰岩性森林の表徴種であるナガミボチョウジ（P. manillensis）は、非常に近縁な種であるが、琉球列島ではそれぞれ土壌性質の異なる地域に棲み分けている。この棲み分けの要因は、それぞれの種の土壌適応性の違いによると考えられるが、その詳細な機構は明らかになっていない。そこで、我々は植物の生育に深く関係する菌根共生系に着目した。本研究ではボチョウジとナガミボチョウジの2種が共生できる菌根菌が異なり、その違いによって土壌適性にも違いが生じ、その結果現在の棲み分けが生じているとの仮説を立て、まずそれぞれの種の菌根菌叢と生育土壌の菌叢の違いを明らかにすることを目的とした。そのために野外から採取したボチョウジ類の実生の根と周辺土壌からDNA抽出を行い、真菌類のITS領域を対象にメタバーコーディング解析及びネットワーク分析を実施した。2種の菌叢及び土壌間にはそれぞれ特異的なコミュニティがみられた。これらの結果から、ボチョウジ類の棲み分けに菌根菌叢がどのように関与しているか議論する。