| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-061  (Poster presentation)

形態的に酷似した近縁2種における共存,交雑,遺伝分化 -ヒョウモンチョウ属2種とウラギンヒョウモン属2種の場合-

*濱本健汰(信州大学大学院), 伊藤建夫(信州大学大学院), 北原曜(信州大学), 市野隆雄(信州大学)

ヒョウモンチョウ族では,同所的に分布する複数の種において,翅模様パターン・成虫の発生時期・訪花植物種・幼虫期の食草などが,種間で類似していることが知られている.本研究では,形態的に互いに酷似しているヒョウモンチョウ属2種およびウラギンヒョウモンチョウ属2系統について,遺伝分化,地理的分布,および交配の有無を調べた.
ヒョウモンチョウ属2種が隔離分布している北海道と中部においてヒョウモンチョウおよびコヒョウモン計81個体,通称ウラギンヒョウモンとされているチョウを北海道,長野県および鳥取県で計246個体,採集した.
まず,ヒョウモンチョウ属2種についてミトコンドリアDNAのCOI領域424bpとND5領域381bpを用いて系統関係を推定したところ,北海道のヒョウモンチョウ,中部のヒョウモンチョウ,コヒョウモンという3系統に分かれることが判明した.しかも,北海道と中部のヒョウモンチョウを同一ケージに入れた実験では,系統間での交配が確認されなかったことから,両系統は別種である可能性が示唆された.一方,ヒョウモンチョウとコヒョウモンの2種は,北海道でも中部でも異所的に分布していた.これは両種の食草が生育する環境が全く違うことによっている.
次に,「ウラギンヒョウモン」について,ミトコンドリアDNAのCOI領域436bpによる系統解析を行った結果,遺伝的に大きく分化した2系統が,多数の調査地点において同所的に分布(混在)していることが判明した.交配実験の結果,2系統間の交配は確認されず生殖前隔離が明確であったが,形態的な差異は検出できなかった.
以上の結果から,ヒョウモンチョウ族の複数の属において,形態的に酷似した隠蔽種が認められることが明らかになった.しかし,隠蔽種間の遺伝分化の程度,交配の可否,分布の異所性同所性については,属の間で様相が異なることが判明した.


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