| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-128 (Poster presentation)
旧川や後背湖沼は水生植物の繁茂や泥濘化した環境下にあり、調査に際しての移動が制限され魚類の捕獲には多大な労力を要する。環境水中に含まれる生物由来のDNA(環境DNA)をhigh-throughput parallel DNA sequencing(HTS)により網羅的に検出し生物種を同定する手法は、環境DNAメタバーコーディング(以下:メタバーコーディング)と呼ばれ、野外調査の簡便さや検出力の高さから、魚類のほか哺乳類、両生類などへ適用範囲が広がっている。しかし魚類では多種の漁具を用いた捕獲調査結果とメタバーコーディングによる検出結果を比較した事例、特に旧川や後背湖沼における事例は少ない。
本研究では、北海道中央部を流れる石狩川流域に点在する31箇所の旧川・後背湖沼において、魚類捕獲調査とメタバーコーディングの結果を比較することによって旧川・後背湖沼におけるメタバーコーディングの適用可能性を評価した。
捕獲調査を7種の漁具を用いて実施した結果、合計9科26種類を確認した。メタバーコーディングでは、捕獲調査を行った地点の表層水1Lを採水しDNA抽出後、ユニバーサルプライマー(MiFish)を用いてmtDNA 12S rRNA領域を増幅し解析した。その結果、捕獲確認された26種類の85%にあたる22種類のDNAを検出した。地点別では捕獲確認した全種が検出された地点があった一方、魚類由来のDNAが検出されない地点もあった。DNAが検出されなかった要因として試料水中に含まれるPCR阻害物質の影響が示唆された。NMDS解析を行った結果、捕獲調査とメタバーコーディング共に旧川と後背湖沼の魚類群集は異なる位置に布置され、旧川と後背湖沼の魚類相の相違が表現され、両手法間で類似した傾向が示された。
以上から今回の調査デザインではメタバーコーディングのみでは生息種を網羅しなかったが、旧川群全体の魚類相の傾向を捉えることはできた。メタバーコーディングを魚類相調査に活用する場合には、従来の捕獲調査と併用することで、精度の高い魚類相調査を行えると考える。