| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-132 (Poster presentation)
本研究は、屋久島の垂直的な植生構造に着目し、野ネズミ個体群の種構成や形態、繁殖期が生息地の標高によってどのように変化するのかを明らかにする目的で行った。調査地として、低標高域 (約400 m、照葉樹林帯)、中標高域 (約1000 m、針広混交林帯)、高標高域 (約1800 m、ササ草原帯)、および各サイトの中間標高域にサブサイトを2ヶ所 (約750 m、照葉樹林帯から針広混交林帯への移行帯、約1500 m、針広混交林帯からササ草原帯への移行帯) 設定した。
2015年から2017年にかけて、各調査地において、シャーマントラップを設置しネズミを生け捕りした。捕獲されたネズミの種、性別、体重、全長、頭胴長、繁殖サインを記録し、指切り法で個体識別した後に放逐した。
その結果、アカネズミApodemus speciosusとヒメネズミA. argenteusが確認され、調査地ごとに生息状況が大きく異なった。低標高域では、アカネズミの割合が他のサイトに比べて多かったが、ネズミの個体数が他の標高域に比べて著しく少なかった。これに対して、中標高域と高標高域では、ヒメネズミが多く捕獲された。また、アカネズミは、高標高域では見られなかった。これらの分布様式は各生息地の植生構造と密接に関わっていると考えられ、特に高標高域では密生したササによってアカネズミの空間利用が大幅に制限されている可能性が示唆された。
また、形態を比較したところ、ヒメネズミに差は見られなかったが、アカネズミの全長、頭胴長について、標高が高くなるにつれて小型化する傾向が見られた。この傾向は寒冷化に伴う餌資源量の低下あるいは密度依存的な反応だと考えられた。
各サイトの繁殖期について推定を行ったところ、低標高域では冬1回繁殖、中標高域では春秋2回繁殖、高標高域では夏1回繁殖であると推測され、本州において緯度勾配に沿って見られる3つの繁殖パターンが屋久島内で共存している可能性が示唆された。この結果も標高による気温の差に起因するものと考えられた。