| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-138 (Poster presentation)
ムラサキインコガイは北海道南西部から九州の岩礁潮間帯に生息するイガイ科の二枚貝である。本種は他のイガイ類と同様に岩礁に足糸で付着し、互いに密集することで「インコ床」を形成してフジツボ類や藻類などの固着生物を競争排除する一方でゴカイ類や小型甲殻類などに二次的生息地を提供することで、岩礁潮間帯の多くの生物に影響を与えることが知られている。
2011年に発生した東北地方太平洋沖地震は最大溯上高30mの津波と約50cmの沈降を東北沿岸にもたらし、ムラサキインコガイを大きく減少させたことが判明している。そこで本研究では、地震による本種の個体群動態の変化を明らかにすることを目的とし、三陸沿岸の5海岸の20の岩礁上に設定した縦横5cm間隔の多数の定点上でインコ床の出現と存続を2002年から2017年の期間に記録し、インコ床の動態に及ぼす「地震の前か後かの時期の違い」、「岩礁高度」、「岩礁単位での捕食者密度」、「固定定点周囲の本種」と「カキ類の被度」の影響を一般化線形モデルを用いて解析した。
主な結果は以下のとおりである。(1)インコ床の出現率と存続率は、岩礁の中部で高かったが、地震後の沈降により存続率が低下した。(2)インコ床の出現率と存続率は、周囲の本種の被度が高いと上昇したが、その効果は地震後に低下した。(3)周囲のカキ類の被度は、インコ床の出現率にはプラスの影響を及ぼしたが、地震後のインコ床の存続率にはマイナスの影響を及ぼした。以上(1)(2)(3)の結果は、地震によるムラサキインコガイの減少には、地震の直接的な影響とともに地震後の種内種間相互作用の影響が変化したことが関与していることを示唆している。