| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-141 (Poster presentation)
本研究の目的は、状態空間モデルを用いたニホンジカの個体数推定手法について、今後の発展可能性を探ることである。
シカの過繁殖は世界中の生息地で問題とされている。シカの個体数が増加することは植生や生態系に影響を与えるだけでなく、シカ自身の栄養状態にも悪影響を及ぼす。各自治体で狩猟等による人工的な個体数調整が行われているが、具体的な調整量の決定や調整結果の評価等行うには具体的な個体数変動を調べる必要があり、その推定法については国内外で様々な議論がある。その中でもシカの齢構成などを考慮することで個体数の時間変動を明らかにしようとしたのがコホート解析やSAKモデルである。しかしこれらのモデルには閉鎖系を仮定している点やデータ採取に長期間、多額の費用を要するというデメリットがある。状態空間モデルによる推定手法はこうした問題を解決するとともに、観測誤差と生態的過程で生じる誤差を明確に分け、直接観測不可能なシカの個体数を推定対象とすることができる。よって近年状態空間モデルを用いた手法が主流となっており、様々な手法が開発されている。
本研究では、Iijima et al. (2013)で示される複数の密度指標を用いた推定法を参考に、神奈川県西部のデータについて推定を行い、その結果について考察した。推定に当たっては県が策定した管理計画から区画法と糞塊法による密度調査の結果を密度指標として観測過程に適用し、捕獲数推移のデータを状態過程に適用した。また、単一の指標を用いたモデルによる推定との比較により、密度指標の仕様に関する考察を行った。いずれの検証も、マルコフ連鎖モンテカルロ法を用いてパラメータ推定を行った。これらの結果・考察から、状態空間モデルを用いた推定手法を今後より発展させるため議論を行った。