| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-146  (Poster presentation)

佐賀平野においてイトトンボ類の個体数に影響を及ぼす環境要因

*大石寛貴(佐賀大・農), 喜多章仁(佐賀大・農), 林岳彦(国立環境研究所), 横溝裕行(国立環境研究所), 角谷拓(国立環境研究所), 降幡駿介(国立環境研究所), 五箇公一(国立環境研究所), 徳田誠(佐賀大・農)

ネオニコチノイド系やフェニルピラゾール系などの浸透移行性殺虫剤は国内においてイネの箱苗施用剤を始めとして様々な農作物で広く適用されているが,これらの浸透移行性殺虫剤の広域使用が生態系に悪影響を及ぼしている可能性が世界各地で指摘されている。国内においては,里山生態系の象徴的生物であるトンボ類に対する負の影響が以前から指摘されており,全国的なトンボ類の減少にこれらの農薬が関与している可能性も報告されている。一方,野生のトンボ類減少には農薬以外の環境要因も関与している可能性があり,また実際の圃場では殺菌剤や除草剤など様々な薬剤も使用されていることからこれらが間接的に作用している可能性も考慮に入れる必要がある。本研究では,以前からトンボ類に関する調査が実施されてきた佐賀平野において10ヶ所の調査地点を設け,トンボ類の成虫および幼虫の種構成や個体数を記録し,地点間で水平比較を行った。また,各調査地点において,水と底質に含まれている残留農薬の分析を行うとともに,水生植物の繁茂状況を水面の被度により評価した。さらにGIS(地理情報システム)解析により,調査地周辺の土地利用状況とイトトンボ類の種構成や密度との関係を分析した。その結果,周辺に水田が多い場所ではイトトンボの成虫・幼虫ともに種数および個体数が少なくなる傾向が認められた。また実際にこのような場所は,農薬の検出量・検出剤が多い傾向があり,GIS解析の結果からも,一部の農薬がイトトンボ類の多様性に負の影響を及ぼしている可能性が考えられた。また,イトトンボ類の種数は水面の被度と有意な正の相関が認められ,被度が低い地点では水中に水草がほとんど見られず,イトトンボ類のヤゴも確認されなかった。したがって,水生植物が生育していない地点は,イトトンボ類の生存にとって不適な環境であると考えられた。


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