| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-149 (Poster presentation)
洞窟生物とは,一般に光の欠落した洞窟環境を利用する生物ことで,その多くで退化した眼球や,発達した側線系など暗所環境に適応的な形質の特殊化が生じていることが知られている.しかし,これらの形質が生じる機構や,各感覚器の特殊化の程度については,対象生物群の調査の困難さや系統上の制約によって,未だ全容の解明には至っていない.
演者らは,これまでに琉球列島の各地で近年発見が相次いでいる地下洞窟棲のカワアナゴ属魚類について,眼球や側線系,内耳といった感覚器に着目した形態計測とミトコンドリアゲノム配列の決定によって近縁種との詳細な比較を行ってきた.その結果,地下棲カワアナゴ個体群は,感覚器形態に量的,質的差異が見られたが,ミトゲノム系統樹では,近縁なテンジクカワアナゴのクレード内に各個体が混在することが明らかになり,両側回遊性の生活史をもつテンジクカワアナゴが,仔魚期に海を介して洞窟に侵入し,ごく短期間のうちに感覚器の特殊化が生じた可能性が示唆された.
現在,演者らは琉球列島の3地域(徳之島,波照間島,与那国島)の地下洞窟から得られたカワアナゴ属魚類と各地域の地上河川に生息するテンジクカワアナゴの眼球についてRNAseqによる遺伝子発現状況の比較を進めており,当日は上記のデータと合わせて,両側回遊性魚類の暗所環境への進出と感覚器の特殊化の機構について議論する.