| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-152  (Poster presentation)

ムクゲネズミとエゾヤチネズミの形態の比較:分布様式と関連させて

*藤原有沙(北大・院・環境科学), 齊藤隆(北大・FSC)

北海道に分布するムクゲネズミM. rexとエゾヤチネズミM. rufocanus は外部形態が酷似している。2種を形態から同定するには、上顎第3臼歯(UM3)の違いを見る必要がある。本研究は、2種の分布域の違いに伴うUM3形態の変異について検証した。
分析に使用した標本は1962個体で、エゾヤチネズミは1832個体、ムクゲネズミは130個体と同定された。UM3形態はUM3の各部を測定し、測定部位(最大長、最大幅、凹部最大深度)の相対値を比較した。
2種間でUM3形態を比較すると、長さ/幅、深度/幅ともに有意差が見られた(P < 0.001)。よって、エゾヤチネズミのUM3は幅広く凹部が深い形態、ムクゲネズミのUM3は細長く凹部が浅い形態をもつことになる。次に、分布域とUM3形態の関係を分析した。分布域を2種が同所的に存在している場所とエゾヤチネズミが異所的に存在している場所に分け(定義1)、同所-異所間で比較すると、長さ/幅では有意差は見られなかった(P = 0.075)が、変異の傾向は形質置換のパターンと一致した。深度/幅ではこの傾向は見られなかった。そこで、属島4島(利尻島、礼文島、焼尻島、天売島)に注目し、同所-異所間で比較した。このうち、利尻島と礼文島が同所、焼尻島と天売島が異所である。長さ/幅では、有意差が検出された(P < 0.005)が、深度/幅で有意差は見られなかった(P > 0.09)。属島の結果を受けて、本島の同所異所の定義は、道東の一部でエゾヤチネズミのみが捕獲されていることからここを異所的な場所とし、その他を同所的な場所とした(定義2)。定義2に従って同所-異所間で比較すると、長さ/幅では有意差が検出された(P < 0.0001)。深度/幅でも有意差が検出された(P < 0.006)が、これは形質置換のパターンとは異なっていた。
これらの結果から、島で見られた形質置換のパターンが本島でも見られたことにより、現在ムクゲネズミが分布していないとされる地域でも、実際は分布している可能性が示唆された。


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