| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-156  (Poster presentation)

埼玉と伊豆大島におけるノコギリクワガタの形態的変異

*井出征一郎, 吉田智弘(東京農工大・農)

メス獲得のために形態を変化させた種の中には、一部の器官が異常に発達するものがいる。それらは発達した器官を持つことでメス獲得に有利になる一方、移動能力の低下や天敵に捕食されやすくなる等の弊害が発生する。そのため、形態の発達には限界があるだろう。さらに、発達した器官の形態変異は顕著であるため、この変異の影響を他の部位が受けているかもしれない。
本研究では発達した器官を持つ生物の形態的変異を明らかにするため、(1)発達した器官が他の部位へ及ぼす影響と(2)発達した器官の大型化の限界について検証し、(3)個体群の形態差として調査地間の形態変異を比較した。本研究では発達した大アゴを持つノコギリクワガタを対象として、体の各部位の大きさや色彩変異から、その形態的変異について調べた。

埼玉ではオス127個体、メス83個体、伊豆大島では55個体、63個体を採集した。(1)オスの小型個体において頭部長<前胸長であったが、大型個体では頭部長>前胸長になったため、発達した器官は他の部位の変異に影響を及ぼすことが示唆された。このことから、発達した器官の形態が全身形態の決定に大きな影響を及ぼすと推測された。(2)オスの大アゴ直線長は上翅長より大きくなれず、中~大型個体において大アゴ直線長と上翅長の比率がほぼ一定であったため、発達した器官の大型化には限界があることが示唆された。このことから、体のバランス維持のため発達した器官は体サイズより大きくならないことが推測された。
(3)次に2地点間の形態差を比較したところ、体長に差が無かったものの、樹液採集個体において体サイズに対する大アゴ直線長・大アゴ曲線長は埼玉の方が大きかった。また、樹液採集個体のオスにおいて頭部色と前胸色、街灯採集個体のオス・メスにおいて上翅色に違いがみられた。この結果から、体サイズに差がなくても発達した器官を含む様々な部位の形態に地域差が現れることが分かった。


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