| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-159 (Poster presentation)
古典的なメタ個体群理論では、パッチ間距離とパッチ面積が主なパラメータとされてきたが、近年第3のパラメータとしてパッチの質が重要であることが示唆されている。パッチの質には餌資源だけでなく、微気候や避難場所などの物理的要因や、寄生・捕食によるトップダウン効果、共生や競争による効果などの生物的要因も含まれる。これらのあらゆる要因が同時に重なり合って局所個体群の成長率を変動させ、その結果メタ個体群動態に大きな影響を及ぼすと考えられる。そこで本研究では、農地景観において、絶滅危惧種の草原性蝶類であるミヤマシジミPlebejus argyrognomonを対象に、局所個体群サイズに及ぼすパッチの質の物理的・生物的要因を同時に調べることを目的とする。解析には、パッチの質として食草の被度や草丈、吸蜜資源といった餌資源の量の他に、避難場所となりうる林縁や農地の面積、更には共生関係にあるアリ密度を組み込んだ。また、対象種は3化性であるため、3時期(春、夏、秋)でのパッチの質や連結性が局所個体群サイズに及ぼす影響の違いも雌雄別で見た。
解析の結果、3時期を通して局所個体群サイズは、雌雄ともに、食草コマツナギの被度が高くなるほど増加することがわかった。連結性においては、中程度で個体数が最大となる単蜂型の関係が見られた。これは、連結性がある程度以上大きくなるとレスキュー効果が弱まると共に、個体間の競合により移動が制限されてくることを示唆する。3時期の比較では、連結性が季節を追うごとに低くなる傾向にあった。また、春と夏において、クロヤマアリの個体数が多いほどミヤマシジミの個体数が増えることがわかった。春・夏のみのアリ調査が時期による違いを生んだと考察されるが、共生アリ種がパッチの質として機能していることが示唆された。