| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-160 (Poster presentation)
生物の個体群動態の解明は生態学の主要な目的の一つであり、これまでに多くの研究が行われてきた。しかし、野外環境において個体群サイズが変動する原因や機構については、多くの生物において未解明の部分も多い。一般に、様々な生物的な要因と気候要因などの非生物的要因が個体群動態に影響を及ぼしているが、生活環が短く年に複数世代を過ごす生物では、作用する要因が世代間で異なると考えられる。その場合、生物の個体群動態の予想はより複雑なものとなるだろう。
本研究では、年2世代を持つPhyllonorycter属潜葉性昆虫について、個体群変動に影響する要因の世代間での相違について調べた。解析に用いたデータは、北海道石狩海岸のカシワを食害する個体群において、1997-2005年および2015-2017年の調査により得られたものである。
一般化線形モデルを用いた解析の結果、夏世代から秋世代への個体群変動には気象要因の顕著な影響は認められなかった。一方で、秋世代から次年度の夏世代への変動には、幼虫期の気温が大きな影響を与えていることが示された。また、両世代において、幼虫の密度が高くなると個体群増加率の低下が見られた。さらにPhyllonorycter属に寄生するハチの寄生率は、現世代の宿主幼虫の密度よりも一世代前の宿主幼虫の密度に強く影響されることが示された。つまり、宿主幼虫の密度が高くなると寄生される幼虫の数も増え、その結果、次世代の寄生率が高くなると考えられた。
これらの結果は、キンモンホソガ類の個体群動態機構を解明するための基礎となるものである。