| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-207  (Poster presentation)

認証制度を軸にしたトキの生息地再生とその順応的管理

*小町亮介(新潟大・院・自然科学), 向井喜果(新潟大・院・自然科学), 鎌田泰斗(新潟大・院・自然科学), 望月翔太(新潟大・農), 関島恒夫(新潟大・農)

新潟県佐渡市では、1981年に野生絶滅したトキを島内に再定着させるため、生息地再生に向けた様々な取り組みが行われてきた。佐渡市が2008年に策定した「朱鷺と暮らす郷づくり認証米制度」は、江、水田魚道、冬期湛水といった生きものを育む農法の導入により、トキの餌場創出が期待される農法を要件とすることで、佐渡島全域の生息地再生の推進に貢献してきた。現在、制度開始から10年が経過し、トキの羽数は290羽、認証水田の面積は全水田の23.6%にまで増加した。トキの再定着に向けて取り組みが進行する中、水田生物多様性やトキの生息地選択性の変化を評価すること、またそれらの結果を反映させた順応的管理の仕組みづくりが課題とされてきた。本研究では、佐渡島全域において水田生物量、トキの農地利用、および農地管理に関するデータを継続的に取得する評価プラットフォームを構築し、放鳥直後の2010年および5年後の2015年における水田生物多様性およびトキの生息地選択に対する生きものを育む農法の有効性を評価した。その結果、水田生物からトキにいたる評価項目に対し、カメムシ目を除くすべてにおいて、江については両年に一貫した正の効果が認められた。水田魚道は、トキに関して1回目の調査時には正の効果が認められたものの、5年後には効果が消失し、それは維持管理が行き届かなくなったことによる魚類遡上効果の失効によることが明らかとなった。冬期湛水については、トキに忌避効果をもたらしている可能性が示された。さらに、水田生物とトキのいずれにおいても、その生息分布は局所環境だけではなく、景観環境に強く影響されており、自然再生の効果をより大きくするためには潜在的な生息適地に配慮することが重要であることが明らかとなった。今後は、得られた結果を認証要件の改善に繋げる農地の順応的管理の仕組みづくりと、運用体制を確立することが不可欠である。


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