| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-216 (Poster presentation)
水田やため池といった人為的な止水域は水中で生活を行う多くの止水性水生昆虫類にとって重要な生息地である。しかし近年、生息環境の変化や減少、消滅等による水生昆虫類の減少が著しく、環境省版第4次レッドリストでは多くの種がランクを上げたり、新規選定され、これらの種の保全が課題となっている。現在、水稲栽培の主流形態である乾田は、水生昆虫類にとって越冬期を含む非湛水期には生息に適さない環境となるが、ため池は通年湛水し生息地として機能する。西城(2001)は水田が一時的な生息地および繁殖地として重要である一方、ため池は水田の非湛水期の避難場所および越冬地として重要であることを指摘しているが、同時に各種の越冬状況などの解明が不十分であるともしている。
そこで本研究では、比較的良好な水辺環境が残る長野県伊那市北西部の止水域において、飛翔性が高く止水域に広く分布し、水中で越冬するとされるマツモムシおよびミズカマキリを対象とし、越冬期の生息状況と環境選択性について解明することを目的とした。
同地域のため池3ヵ所において、調査プロットを水中の植生毎に各3プロット、合計24プロットを設定した。個体数調査はたも網を用いてすくい取りを行った。同時に立地環境調査として水深を計測した。さらに、各ため池を中心とした直径500m円内の土地利用調査も行った。
その結果、マツモムシをのべ152個体、ミズカマキリを1個体捕獲した。マツモムシは植生のある環境にのみ出現し、活動期と休眠期では異なる環境を選好した。ミズカマキリは調査対象外のため池で集団越冬していることが観察され、マツモムシとは異なる環境を選好すると指摘された。両種は周辺の止水域から飛来、集合していると考えられ、越冬地の環境の変化や消失は広域に渡ってこれらの生息状況に影響する可能性があり、多様な水中環境を有するため池の保全が重要であると示唆された。